夫婦のキズナ
こんにちは、エレガンテです。
パブロフの犬のように条件反射的によみがえってくる記憶、ってありませんか。
私の場合は、
がん
↓
がん研有明病院の、あの大きな窓とベッドと仕切りカーテンの病室
↓
その窓際で寄り添い夜景を見つめるご夫婦
と連想ゲームのように浮かんでしまうのです。
開腹手術をされた方はご記憶にあると思いますが、手術後は3日間ほど脊髄麻酔が投与されます。
3日限定なのは強い中毒性があるから。
「手術後、ヤク中になっちまったよ~」
なんて困るでしょ
だから4日目からはどんなに痛みがあっても飲薬(←弱いの)に変更されます。
ただ稀にですが、一般的に用いられる「フェンタニル」という麻酔薬が身体に合わず、悲劇を起こしてしまう方がいらっしゃいます
私が手術前の検査入院をした際、同室だったのは32歳の女性。
抗がん剤でツルンとしたスキンヘッドが夏目雅子さんの三蔵法師みたいで、とっても可愛かった。
結婚後なかなか子供に恵まれないので不妊治療でも始めようかと婦人科を受診したところ、既に第Ⅲステージにまで進行した子宮体がんが見つかり子宮と卵巣を全摘出、私がご一緒した時は最終クールの抗がん剤治療で入院されているところでした。
彼女が語ってくれた、手術体験とは・・
**********
術後目覚めると、何やら気持ちが悪い。
それは徐々に激しくなり、胃だけではなく臓器全てがもみくちゃにされ口から飛び出てしまうのではないか、というくらいの激しい嘔吐。
七転八倒したあげく、とうとう、ナースコール。
「背中のおぐずり・・、どめてぐだざい。。」
嘔吐から解放されて、ふぅ~と息をつけたのはホンの一瞬。
次にやってきたのはおぞましい激痛。
地獄の拷問なんて表現では生ぬるい、それはもう言葉では表わせないほどの激痛にベッドをのたうち回ったあげく、再びナースコール。
「背中のおぐずり・・、いれでくだざい。。」
**********
彼女からその話を聞き、手術前、秘かに怯えていたのです。
ところが案ずるより産むがやすし
フェンタニルとの相性も良く、手術翌日から点滴棒を引きずりながらのリハビリウォーキングを開始できたのでした
そんな元気ハツラツな私が退院する数日前、卵巣がんで入院して来られたのは中学生と高校生の息子さんを持つ優しそうなお母さん。
右往左往するだけの男性3人を心配する姿は「どっちが病人?」と突っ込みたくなるほど、微笑ましい光景でした。
翌日、手術から戻り、目覚めたらしい彼女。
とうとうナースコール。
脊髄麻酔を止めたはいいけれど、その後もお決まりのパターンで再びナースコール。
ほどなくして、また嘔吐に苦しんでいるご様子・・
「何かお手伝いできることがあったら、おっしゃって下さいね」
カーテン越しにお声をかけると、
「はぁ、はぁ、あ、ありがとう・・、ござい・・、ます・・、らいじょうぶ、れす」
と、弱々しいお返事。
すると、中学校帰りの息子さんがお見舞いにやって来ました。
「お母さん、どう?」
カーテンを開けた息子さんに、彼女は厳しい口調で言い放ちました。
「大丈夫だから帰りなさいっ!ここはいいから、早くっ!」
お母さんが心配でやってきた中学生は何が何だか訳のわからぬまま、カーテンを閉め、黙って帰って行きました。
私には彼女の「お母さん」としての気持ち、が痛いほどわかりました。
子供に自分の弱った姿なんて、見せられませんもの・・
夜になると、今度はお仕事帰りのご主人がお見舞いに。
「ああ、あなた・・、待ってたのよ、テッシュペーパーを買ってきてほしくて・・。もう、気持ちが悪いったらないの。お薬を止めてもらったら、今度は痛くて痛くて。申し訳ないけど、また元に戻してもらっちゃった・・。
はぁ・・、もう胃液すら出ないんだけど、テッシュがどんどん無くなってしまって」
(だから私が買ってきてあげたのに~。他人には気を遣って頼れないのよね、わかる、わかる)
何度も嘔吐する奥様の背中をさすっていらっしゃるご主人の様子が、カーテン越しに伝わってきました。
(子供にも、年老いた親にも見せたくない、情けない自分の姿。そんな弱い部分をさらけだして、受け止めあえるパートナーがいるんだなぁ・・)
え?
私、いないよね?
それは、とても寂しく、やりきれない孤独感でした。
でもそれは同時に、夫の両親の介護や面倒な親戚づきあい等とは無縁に自分のやりたいように人生を謳歌してきた私が、しっかりと向き合わなければならない現実でもありました。
売店へ行ったご主人が、なんと大量の箱ティッシュを抱えて戻ってきました。
「まぁ、どうしたのよ、そんなにたくさん!」
「いろんな種類のティッシュがあってさぁ、どれを買えばいいのか、わからなかったんだよ。だから、全種類買ってきた」
「もう、あなたったらぁ~」
男性3人が「あれはどこだ」「これがない」と散らかし放題、ぽっかりと穴の開いたリビング。
でも彼女が扉を開けたとたん、パッと明かりがついたように華やぎ、
「まぁ、何なの、これは!」
と小言を重ねながらも、身体を横たえる暇をおしんで片づけ始める彼女。
「無理しない方がいいんじゃないか」と心配そうに、後ろを付いて回るだけの男性3人。
そんな退院後の光景まで浮かんでくるようでした。
「窓からの夜景が綺麗なのよ」
「一緒に写真でも撮ろうか」
「写真?いい歳して、何言ってるのよぉ」
「いいじゃないか、ほら」
パシャッ
パブロフの犬のように思い出してしまうのは、このご夫婦のこと。
いつまでもお元気で
幸せでいて下さいますように・・
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